ウエクチクサリヒメウズムシ(Stenostomum simplex)

新幹線のような形状で、フロントガラスに相当する位置に口が存在する奇妙なウズムシ(体長1mm程度)。

繊毛虫を主食とするが、口が上に向いているので、壁面を這う繊毛虫は食べ難そう。 しかし、食う食われるの世界は良く出来たもので、田面水には、水中を浮遊する繊毛虫のハルテリア(Halteria)が生息しており、本種はその群れに突入して次々に口に吸い込む 。 ところが、ハルテリアのあまりいない時期や水域でも見られる。顕微鏡観察すると、生物膜などの立体的な場所に入り込んで、獲物を探し回っている。そのような場所ならば、繊毛虫は頭上にも這いまわっているので、苦も無く食べることが出来るのだ(山崎 2015)。

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  • 本種は飼育が容易で、ガラスシャーレにミネラルウォーターと生米を2粒入れて、数日放置したら米粒の表面に白い膜が付くので、そこに本種と、本種の周囲にいた繊毛虫を入れておけば、数日後、1個体が2個体に分裂して増えるその後、シャーレ内が本種でいっぱいになると恐ろしいことが起こる。なんと、周囲の個体よりも数倍大きな個体が出現するのだ。あろうことか、この個体は通常サイズの個体を食べる。恐らく、共食いを繰り返しながら大きくなったのであろう。
  • 種を同定する際に用いられる18SrRNA遺伝子断片の塩基配列を調べたところ、本種は2種の異なる塩基配列を持っていることが判明した(Yamazaki et al. 2012)。口が上を向いていたり、巨大な個体が出現したりするのは、こうした遺伝子異常の影響なのかも知れない。これまで知られている中で本種に最も近縁な種では、18SrRNA遺伝子断片の塩基配列は1種類で定まっているのに、形態が4タイプもあり、形態による分類が困難という(Larsson et al. 2008)。ウエクチクサリヒメウズムシ周辺のグループは、何やら怪しいグループで、今後、要注目である。
    • (引用文献)

      山崎真嗣(2015)6-8 食べて食べられお互い大きくなる, ってほんと?. 『土のひみつ−食料・環境・生命−』(「土のひみつ」編集グループ編) pp. 174-175 朝倉書店, 東京.

      Yamazaki, M., Asakawa, S., Murase, J., and Kimura, M. (2012). Phylogenetic diversity of microturbellarians in Japanese rice paddy fields, with special attention to the genusStenostomum.Soil science and plant nutrition, 58(1), 11-23.

      Larsson, K., Ahmadzadeh, A., and Jondelius, U. (2008). DNA taxonomy of Swedish Catenulida (Platyhelminthes) and a phylogenetic framework for catenulid classification.Organisms Diversity & Evolution, 8(5), 399-412.